アオザイオーダーメイドのサイゴン70’sです
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サイゴンのある1日
街や人の様子を時間を追って見ていきます。
ちょっとした住民気分で過ごしてみてください。
お寺の祭りのようです
夜中まで続いていたバイクの音はいつ止むともなくそのまま朝を告げる音になる。
朝5時。向かいのカフェでは早くも人が集まり、世間話を始めている。まだ人通りの少ない通りをごみ収集車が行き来し、市場の周りで野宿していた野菜売りの女性たちがもぞもぞと動き始める。通りのごみがすっかり回収され、薄明かりの市場の中に日がさして来る頃、市場は本格的に目が覚める。
ベトナムの市場には冷蔵庫も冷凍庫もない。今朝さばいたばかりの肉や、生きたままの鶏、収穫したての野菜、ピチピチとはねている魚が並び、その日のうちに売り切ってしまう。値段はその鮮度によって決まる。朝一番が最も値が張り、昼、夕、夜と鮮度に比例して値段も下がっていくシステム。冷凍・冷蔵が当たり前の日本から見るとベトナムの市場の贅沢さはうらやましい限り。

朝の市場でひときわ食欲を刺激するのは、炭火で焼いた肉の匂い。たたいて薄くのばした豚肉を甘辛く味付け炭火で炙り、豚皮の千切りのピーナッツ和えとともにご飯の上にのせる。
隣のビーフン屋では分厚い肉ののった汁ビーフンを食べている人がいる。こちらもなかなかのボリューム。
軽めの朝食なら、おこわ。甘辛い鶏肉をのせたものや、とうもろこし入り、緑豆入り、ピーナッツ入り、甘いでんぶをかけたものと実に様々。
大鍋にとろとろのお粥を炊いている店もある。アヒルや、鶏、魚のおいしいだしで煮込んだお粥に、レバーなど内臓類、血のかたまりを茹でてスライスしたもの、中国風の揚げパン、香草などをのせてもらう。
蒸し器からおいしそうな湯気が上がっているのは肉まん屋さん。ベトナムの肉まんは具沢山でウズラ卵まで入っている豪華版。

フォーも朝食の定番。基本的にはフォーは鶏肉と牛肉の2種類しかない。しかし、同じ牛肉でも肉がレアなのか、ミディアムなのか、もしくはスープで煮込んだ「煮牛」のスライスなのか選び、トッピング(骨髄・生卵・すじ肉・肉団子など)も指定できる。フォーが出るまで待ちきれない人はテーブルの上の大皿に積んである「ミートパイ」や、「ゴマ団子」なんかをつまんでもいい。
レモンを絞り、さらに自分の好みに応じてトッピング。何種類かのハーブ、ヌクマム、生唐辛子、甘味噌、唐辛子味噌など、味見をしつつ、加えていく。
市内のサラリーマンやOLたちはここで腹ごしらえをし、バイクにまたがりオフィス街へと消えていく。

日差しが強くなってくると、ベトナム人たちは涼しい室内や日陰へと避難を始める。彼らに代わって街中へと繰り出すのは私たち外国人観光客。

サイゴン市内は私たちを喜ばせるもので溢れている。日本の女性雑誌で紹介しているような雑貨店や、カフェ、コロニアルな建物、ココナッツジュース売り。南国のまったりしたけだるい空気とあか抜けた街並みが程よく溶け合ってなんともいい感じ。
そんな中でも、ベンタイン市場はサイゴン散策の目玉のひとつ。別名「観光市場」などと呼ばれるほど観光客でいっぱい。当然、他の市場より高め。しかし、メリットもある。常に流行の最先端のものを扱っていて、種類も豊富で店の数も圧倒的。英語も、店によっては日本語も通じる。ただ、あくまでここは市場。人々の生活のベースであり、「土産物屋」ではないのでそれなりのルールがある。

まず、気をつけたいのは、買う気がないのに商品に手を触れたり、ひやかしで値段を聞かないこと。本当に興味の場合のみ値段を聞いてみよう。すると売り手は「お風呂の椅子」を出してきて、座るように勧めてくる。腰を落ち着けたら商品の吟味と値段交渉。ここには定価はないので交渉しだいで値段が決まる。その価格には幅があり、安いほうから、地元人価格、地元以外のベトナム人価格、ベトナム人金持ち価格、ベトナム語の観光客価格、英語の観光客価格、日本語の観光客価格、といったところ。
ベトナムでは持っている人が持っていない人に余分に払うというのが暗黙のルールとなっている。もちろん法外な値段を要求されたら断固拒否すべきだが、少しぐらいは「普通のこと」と思っておいた方がいい。ベトナム人の金持ちも同じように余分に払っている。あまり、値切ることに神経をすり減らしていると楽しいはずの旅も辛いものになってしまうので、ほどほどに。予めスーパーやデパートで相場を知っておくと交渉しやすい。それより安く買えれば良しとしよう。

売り手に対しては慎重に、きちんと敬意を示して誠実な態度で接した方がいい。彼女たちと友好的な関係を築いた方が交渉もしやすいし、怒鳴られたり、物を投げつけられたり、にらみつけられたりしなくても済む。

ベトナム人はこうして、一つ一つじっくり時間をかけて買っていく。まるで、時間という観念がないのかと思えるほど、のんびり話し込んでいる。話題は明らかに値段交渉から世間話になっていくが、売り手も、買い手も全く急ぐ気配がない。これこそ、正しいベトナムでの買い物風景といえるだろう。

もうそろそろ、昼食の時間。市場の中の食べ物コーナーでおいしそうなビーフンを食べるのも悪くないが、外へ出て食堂に入るのもいい。
大衆食堂へ来れば平均的ベトナム人が普段何を食べているかわかる。ずらりと並んだおかずはどれも家庭的なものばかり。
あまり見た目と味のギャップがないので、見た目で選んでもまず問題ない。
豚の角煮や、魚の煮付け等の甘辛おかずもいいし、ココナッツ風味のエビの炒め煮も捨てがたい。エビの味噌で赤く染まったそれらのおかずは濃厚な香りをあたりに漂わせ人の気を惑わす。にんにく風味の空芯菜の炒め物はベトナム全国北から南まで年中食べられる定番中の定番。ふっくら焼けたひき肉入りの卵焼きも、薄くかりっと焼いたベトナム版ハンバーグもいい。骨付き豚肉の網焼きステーキなんてのもある。トマトの肉詰め、魚のトマトソース煮、豆腐とトマトの炒め物など、トマト味のおかずも外せない。
おかずをご飯の上にのせて食べるのがベトナム流。ご飯の上にのった甘辛おかずやにんにく風味のおかずを食べるアジアならではの幸せ。あぁ、私はアジアの一部なのだ、などと大げさなことを考えながら、ただただ、食べる。

お腹がいっぱいになった頃、日差しはますます強くなっている。ベトナム人たちは何をするわけでもなく日陰でくつろいでいる。暑さでエネルギーを失わない為の南国の常識。ここは私たちも彼らを倣って部屋に戻って一休みしよう。冷たい水を浴びたらハンモックに体を任せ、目を閉じる。天井で回るファンの音を遠くの方で聞きながら、暑い昼下がりのうたた寝。次に目が覚めるころには暑さも少しは和らいでいるはず。

一瞬、開け放した窓の外から、風が強く吹き込んだと思ったら、ばらばらと大きな音がして目が覚める。乾いた地面から埃が舞い、途端に湿り気を含んだ匂いに変わる。ハンモックの中でまだ目は閉じたまま、何となく子供の頃の夏休みのことを思い出している。
暑い日の夕方、同じ匂いがした。最初はゆっくりだが、あっという間にその勢いは増し、しまいには大雨に変わる。どこから帰るところだったのだろう。道の真ん中で半ば呆然として空を見た。困ったふりをしながらもうれしさは抑えきれずにわざと水たまりに足を取られながら家へと急いだ。
起き上がり窓の外を見る。
お店の軒下で雨宿りをする人、雨の中を駆け回る子供、まるで雨なんてふっていないかのようにただ歩いている人、どこから現れたのか傘を売り始める子供、バッグの中からレインコートを出し自分ばかりかバイクにも覆いかぶせる人。いつものスコール。
すぐやむことを知っているせいなのか、あまり傘をさす人はいない。傘売りの子供は商売上がったりの様子。これもいつものこと。
ひんやりとした空気があたりの熱気と埃を洗い流す。でも、それもつかの間。降り始めたときと同じぐらい嘘のように唐突に雨はあがる。太陽は数分前と変わらない力強さで水浸しになった地面を照らし、見てとれるほどの速さでその水分を奪う。と同時に熱気も奪い去られたようで、幾分涼しくなったよう。

散歩にでも行こう。

ベトナム人は夕方の散歩がお気に入り。水浴びして、昼寝して、パリッとした清潔な服に着替えると出かけていく。
街を歩くと昼間室内に避難していた人たちが徐々に行動し始める様子を見ることができる。
街角の甘味屋では白いアオザイの女学生たちがチェーを食べながらおしゃべりに夢中になっている。
店や家の前には椅子が並び、そこの家の主人が夕涼みをしている。彼らにとって美しい街並みや雄大な自然を望む景色なんて必要はない。埃っぽいいつもと変わらぬ街の様子を眺めながら座っていればそれでいい、とでも言っているかのようにいつも同じ場所でただ、人の流れを眺めているのだ。
座る人のすれすれのところを人々は行き交い、時には隣に座りおしゃべりをする。
バイクタクシーやシクロの運転手はやっとやる気を取り戻したのか、盛んに声をかけてくる。
手をつないで通りを横切る女の子たちは、日中日差しよけのために着ていた長袖服を脱ぎ、すっかり「武装解除」している。
私はといえば小さなジュース屋に入り、果物のシェイクを注文するのが日課となっている。生の果物と、練乳、氷を入れミキサーにかけたシェイクは体の熱を冷まし、一息つかせてくれる。通りに面したいつもの席を陣取り、ベトナム人と同じように通りを眺めてみるのもこの時間の楽しみのひとつ。

しかし夕方のけだるい雰囲気は長くは続かず、日が暮れるにつれて、人々は活発に動き出し、街はまた別の一面を見せ始める。

SAIGON70'S サイトマップ
チャン・フン・ダオの像
朝の空気は澄んでいて気持ちがいい
朝の定番フォー
長手袋、帽子、布で口元を覆った完全武装の女の子たち
蒸し春巻き専門店
海老の炭火焼
日よけのすだれが濃い日陰を作っている
蓮サラダ
海老のすり身のちくわ風
夕方
公園は地元の人の憩いの場
犬までのんびり
サイゴンの夜は遅い。

街の中心のローターリーには市内のバイクが総動員されているのではと思えるほどのバイクの群れ。どこへ行くでもなくただぐるぐると回っている。いつまでもいつまでも流れが滞ることはない。

大型スーパーマーケットを覗いてみる。日本のスーパーのイメージとは程遠く、ネオンが輝き最新ポップスが大音響で流れ、店の前にはバイクが無数に止まり、一大娯楽施設のよう。屋台風の食堂も大盛況で、ゲームコーナーには子供たちが殺到し、若い女性はワゴンセールのTシャツを選ぶのに必死になっている。

南国風の凝った造りのカフェレストランはこのところ急速に店舗数が増えているようで、市内のいたるところで見られる。場所が中心地から離れているせいか、不思議と観光客が少なく夜遅くまでベトナム人で賑わっている。皮までパリパリに焼かれた豚肉や鶏肉の香ばしい香り、食卓の上の鍋からは湯気が立ちのぼり、たっぷりと氷の入ったグラスにはビールが注がれ、いたるところで乾杯の声が上がる。氷で幾分薄まったビールと店内の熱気とおいしい香りですっかり酔っぱらってしまう。

酔いを醒ますなら屋台めぐりもいい。市場の周りには夜限定屋台が並ぶ。貝類の屋台では蒸し貝、レモングラス炒め、焼き貝などが食べられるし、夜の定番「孵化しかけのアヒルの卵の蒸したもの」ももちろんある。この卵、日本人はあまり食べたがらないけど、本当においしい。鶏がらスープに卵と肉が入っている、という味。以前日本のテレビ番組で中身をすべて皿の上に出して食べようとしていたのを見たことがあるけど、あれは間違い。あんなことしたらベトナム人だって気持ち悪がって食べられない。正しくは、まずゆで卵入れに卵を立て、スプーンの背で上のほうを割る。中にスープがたくさん入っているので口をつけて飲み、塩コショウを少々入れ、スプーンですくって中身を食べる。時々添えてある香草を食べる。こうすれば何の抵抗もなく食べられる。
他にもビーフンやフランスパンサンド、生春巻き、漢方チェーなどもこの時間によく見かける。

オープンカフェの通りに面した席に座ってみる。夜風の中で飲む冷たい1杯は格別の味。ビールやカクテルでもいいけど、せっかく果物の宝庫に来ているのだからフレッシュジュースでもいい。通りを眺めながら座っていると物売りたちが次々とやってきては消えていく。宝くじ売りのお婆ちゃん、花売りの子供、うずたかく積まれた本を片手に抱えた本売りの女性、チューインガム、タバコ、ライター、サングラス、と商材は様々。みんなコンパクトにまとめられた薄っぺらな箱一つで売り歩いている。そんな物売りたちの話。
10歳のタバコ売りの少女。1日の売り上げは約500円。売り上げが少ないと親に殴られる、といっているが本当かどうかはわからない。何か食べたいものがあったらおごってあげると言ったら、「お金が食べたい」と言って笑った。その顔は人生の半ばを過ぎた大人の顔だった。
26歳のライター売りの男性。結婚していて子供もいるが昼間は学校に通っている。学費のために夜は物売りをしているそう。生活費は奥さんが稼いでいるのだろうか、と余計な心配をしてしまう。
おそらく3~4歳と思われる小さな女の子。ガムを売りにきたその子は私の腕に小さな手を置き、消え入りそうな声で話しかけてくる。少し離れたところでその子に指示を出している大人がいる。一見親子のようだがこういった商売には「他人の子供を借りて同情を買い、物を高く売りつける」という商法もあるので、この大人と子供がどんな関係なのかは定かではない。
若い頃は美人だったに違いない中年女性。ピンクのプラスチックのバスケットに香水を入れて売り歩いている。中を見るとシャネルやグッチ、ディオールなどの有名ブランドの香水がずらりと並んでいる。しかし、きちんと包装されたものひとつとしてなく、中身は全く別物であることがうかがえる。
恥ずかしがりの8歳の宝くじ売りの少年はなかなか人に声をかけられずにいた。1日300円ぐらいの売り上げを上げているが、自分の手元には何も残らない。元締めに売上金を渡し、わずかな給料をもらい、それは自動的に親のものとなる。ココナッツジュースを買ってあげると大げさに感激することもなく、少しだけ笑ってゆっくり飲み干した。
物売りと客たちの攻防戦はこうして、真夜中まで続くのだ。

部屋に戻ってベッドに入ってもバイクの音ですぐには眠れない。
一体こんな時間に誰がどこへ向かっているというのだろう。いつまで大声で話しているつもりなのか。この人たちはいつ眠っているのだろうか。などと、ほとんどどうでもいいことで頭がいっぱいになるし、夜の街の高揚した気分もそう簡単には冷めないしで、いつまでたっても寝付けない。しかし、寝付けないと思っていたのが夢だったかのようにいつの間にか眠りに落ちている。どこまで現実でどこから夢なのかはっきりしない浅くて短いサイゴンの夜は更けていく。

ただ涼しいという理由だけでバイクに乗る
子豚の丸焼き
貝とアヒルの卵
上の写真の店の外観
漢方系のチェー屋さん・昆布や木の実などが入っている
外国人が多く来るバー
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